小規模食品事業者のためのHACCP簡易版(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)完全ガイド【2026年版】
公開日: 2026年6月2日
最終更新日: 2026年6月2日
カテゴリ: 食品安全・HACCP
対象読者: 飲食店経営者、小規模食品製造業者、食品販売業者
読了時間: 約25分
目次
2. 対象事業者の明確な線引き
3. 「HACCPに基づく衛生管理」vs「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の違い
4. 手引書制度の解説
5. 衛生管理計画の作り方
6. 記録の付け方と保管
7. 保健所の立入検査対策
8. よくある失敗と改善策
9. FAQ 10問
10. 著者情報・CTA
1. 導入 -- なぜ「簡易版HACCP」が存在するのか
食品衛生法改正の経緯
2018年(平成30年)6月13日、「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成30年法律第46号)が公布されました。この改正は、食品を取り巻く環境の変化や国際化の進展等を踏まえ、15年ぶりとなる食品衛生法の抜本的な見直しとして行われたものです。
改正の7つの柱の中でも特に注目されたのが、HACCPに沿った衛生管理の制度化です。2020年(令和2年)6月1日に施行され、1年間の経過措置期間を経て、2021年(令和3年)6月1日から完全義務化されました。
これにより、原則としてすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組むことが求められるようになりました。
なぜ「二段階制度」が必要だったのか
HACCPの本来の姿は、コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)が策定したHACCP7原則12手順に基づく、高度で体系的な衛生管理手法です。大規模な食品工場であれば、専門の品質管理部門を設けてこのシステムを運用できます。
しかし、日本の食品事業者の大半を占めるのは、町の飲食店、パン屋、弁当屋、和菓子店、八百屋といった小規模事業者です。厚生労働省の統計によれば、食品関係営業許可・届出施設の約8割以上がこうした小規模事業者に該当します。
これらの事業者に大規模工場と同じレベルのHACCPシステムを要求することは、現実的ではありません。そこで日本は、世界的にも珍しい二段階(ツー・ティア)制度を採用しました。
| 区分 | 名称 | 対象 |
|---|---|---|
| **基準A** | HACCPに基づく衛生管理 | 大規模事業者、と畜場、食鳥処理場等 |
| **基準B** | HACCPの考え方を取り入れた衛生管理 | 小規模事業者等 |
基準Bが、本記事で詳しく解説する「HACCP簡易版」です。業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した「手引書」に沿って衛生管理を行えば、法律上の義務を果たしたことになります。
本記事の目的
本記事では、小規模食品事業者の皆様が、HACCP簡易版に確実に対応できるよう、以下の内容を網羅的に解説します。
法令の条文番号や厚生労働省の公式情報に基づき、実務で使えるレベルの情報を提供します。
2. 対象事業者の明確な線引き
法令上の根拠
HACCP簡易版(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)の対象事業者は、食品衛生法施行規則第66条の2第2項に規定されています。具体的には、以下の事業者が「小規模な営業者等」に該当します。
対象事業者の5つのカテゴリー
カテゴリー1:製造販売一体型事業者
食品を製造し、又は加工する営業者であって、その施設に併設又は隣接した店舗において、製造・加工した食品の全部又は大部分を小売販売するもの。
具体例: 菓子の製造販売、豆腐の製造販売、食肉の販売、魚介類の販売 等
カテゴリー2:飲食店営業・調理営業者
飲食店営業又は喫茶店営業を行う者、その他の食品を調理する営業者。
具体例: 一般飲食店、喫茶店、そうざい製造業、消費期限が概ね5日程度のパン製造業、学校・病院等の営業以外の集団給食施設、調理機能を有する自動販売機
カテゴリー3:容器包装食品の販売・運搬事業者
容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵、運搬、又は販売する営業者。
具体例: コンビニエンスストア、自動販売機(調理機能なし)、食品の運搬業
カテゴリー4:小分け販売事業者
食品を分割して容器包装に入れ、又は容器包装で包み小売販売する営業者。
具体例: 八百屋、米屋、コーヒーの量り売り 等
カテゴリー5:従業員50人未満の事業場
食品を製造し、加工し、貯蔵し、販売し、又は処理する営業を行う者のうち、食品等の取扱いに従事する者の数が50人未満である事業場。
重要: 事務職員等の食品の取扱いに直接従事しない者はカウントしません。
判断フロー表
以下のフローチャートで、あなたの事業がどちらに該当するか確認できます。
```
Q1: 食品の取扱いに従事する者が50人以上ですか?
│
├── はい → 「HACCPに基づく衛生管理」(基準A)
│
└── いいえ → Q2へ
│
Q2: 以下のいずれかに該当しますか?
・飲食店営業/喫茶店営業
・製造した食品を併設店舗で小売販売
・容器包装食品のみの販売/運搬
・食品の小分け販売
・集団給食施設(営業以外)
│
├── はい → 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(基準B)
│
└── いいえ → Q3へ
│
Q3: 食品の取扱いに従事する者が50人未満ですか?
│
├── はい → 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(基準B)
│
└── いいえ → 「HACCPに基づく衛生管理」(基準A)
```
注意すべきポイント
複数施設を持つ場合: 判断は施設(事業場)ごとに行います。本社工場(従業員80人)は基準A、直営販売店(従業員5人)は基準Bとなる場合があります。
季節雇用・パートの取扱い: 食品の取扱いに従事するパートタイマーやアルバイトも人数にカウントします。繁忙期に50人以上となる場合は、基準Aの適用を検討する必要があります。
と畜場・食鳥処理場: これらは規模に関わらず基準Aが適用されます(と畜場法・食鳥処理法に基づく別規定)。
3.「HACCPに基づく衛生管理」vs「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の違い
両者の違いを正確に理解することは、自社に必要な取り組みを明確にする上で極めて重要です。
比較表
| 比較項目 | HACCPに基づく衛生管理(基準A) | HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B) |
|---|---|---|
| **法令根拠** | 食品衛生法施行規則 別表第18・第1欄 | 食品衛生法施行規則 別表第18・第2欄 |
| **対象事業者** | 大規模事業者(従業員50人以上)、と畜場、食鳥処理場 | 小規模事業者等(上記5カテゴリー) |
| **基本的な考え方** | コーデックスHACCP7原則12手順に基づく | 業界団体の手引書に沿った簡易的な対応 |
| **危害要因分析** | 自ら原材料・製造工程ごとに実施 | 手引書の解説を読んで理解する |
| **衛生管理計画** | 自ら作成(危害要因分析に基づく) | 手引書のひな形を利用して作成 |
| **重要管理点(CCP)** | 自ら特定・設定 | 手引書に示された重要管理のポイントに従う |
| **モニタリング** | CCPごとに管理基準・モニタリング方法を設定 | 手引書の記載に従い実施状況を確認 |
| **是正措置** | 逸脱時の是正措置手順を事前に策定 | 手引書に基づき対応 |
| **記録** | 全CCPの記録を体系的に保管 | 手引書の記録様式を利用 |
| **検証** | 定期的な検証活動の実施 | 定期的な振り返りと見直し |
| **外部認証** | 任意でISO 22000、FSSC 22000等の取得可能 | 通常不要(手引書準拠で十分) |
| **専門知識** | HACCPチームの編成、専門的知識が必要 | 手引書の理解で対応可能 |
| **コスト目安** | 中~高(コンサル費用、認証費用等) | 低(手引書は無料、記録用紙も無料配布) |
基準Bの本質:「簡略化」であって「手抜き」ではない
基準Bは、HACCPの考え方の核心(危害要因を理解し、重要な管理ポイントを押さえ、記録する)を維持しつつ、手引書という「お手本」を使うことで専門知識のハードルを下げた制度です。
食品安全の目標レベルは基準Aと同じです。アプローチの方法が異なるだけであり、決して衛生管理の水準を下げてよいという意味ではありません。
4. 手引書制度の解説
手引書とは何か
手引書は、各業界の食品等事業者団体が作成し、厚生労働省が食品衛生管理に関する技術検討会で内容を確認した文書です。各業種・業態に特有の危害要因や管理方法が具体的に示されており、以下の要素を含んでいます。
手引書の入手方法
1. 厚生労働省ウェブサイト: 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」ページからダウンロード(無料)
2. 各業界団体のウェブサイト: 作成団体から直接入手可能
3. 所管の保健所: 印刷物を配布している場合あり
4. 手引書検索システム: 一般財団法人食品産業センターが運営する検索システムで、製品の「喫食方法」「保存方法」「加熱の有無」「生鮮原料の使用の有無」を選択して、該当する手引書を検索可能
業種別手引書一覧(主要手引書)
厚生労働省ウェブサイトには多数の手引書が掲載されています。以下は主要な手引書の一覧です(2026年6月時点)。
| No. | 業種・業態 | 手引書名 | 作成団体 |
|---|---|---|---|
| 1 | 小規模な一般飲食店 | HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け) | 公益社団法人日本食品衛生協会 |
| 2 | 旅館・ホテル | 旅館・ホテルにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 一般社団法人日本旅館協会 等 |
| 3 | 菓子製造業 | 菓子製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国菓子工業組合連合会 |
| 4 | パン製造業 | パン類の製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 一般社団法人日本パン工業会 等 |
| 5 | そうざい製造業 | そうざい製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 一般社団法人日本惣菜協会 |
| 6 | 豆腐製造業 | 豆腐製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国豆腐連合会 |
| 7 | 漬物製造業 | 漬物製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全日本漬物協同組合連合会 |
| 8 | めん類製造業 | 生めん類製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国製麺協同組合連合会 |
| 9 | 食肉販売業 | 食肉販売業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国食肉事業協同組合連合会 |
| 10 | 魚介類販売業 | 魚介類販売業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国水産物商業協同組合連合会 |
| 11 | 給食施設 | 小規模な給食施設におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 公益社団法人日本給食サービス協会 等 |
| 12 | 納豆製造業 | 納豆製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国納豆協同組合連合会 |
| 13 | 水産加工品製造業 | 水産加工品製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国水産加工業協同組合連合会 |
| 14 | 乳処理業・乳製品製造業 | 乳処理業・乳製品製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 一般社団法人日本乳業協会 |
| 15 | 清涼飲料水製造業 | 清涼飲料水製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 一般社団法人全国清涼飲料連合会 |
| 16 | 食品の小分け販売 | 食品の小分け販売(八百屋、米屋等)におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 全国青果卸売協同組合連合会 等 |
| 17 | 弁当・仕出し | 弁当等におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 公益社団法人日本食品衛生協会 |
| 18 | 食品添加物製造業 | 食品添加物製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 日本食品添加物協会 |
| 19 | 米穀等販売業 | 米穀等の販売におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 全国米穀販売事業共済協同組合 |
| 20 | 茶製造業 | 茶の製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 公益社団法人日本茶業中央会 |
| 21 | 食用油脂製造業 | 食用油脂製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 一般社団法人日本植物油協会 |
| 22 | みそ・しょうゆ製造業 | みそ・しょうゆ製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国味噌工業協同組合連合会 等 |
| 23 | 容器包装食品販売業 | 容器包装に入れられた食品の販売におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書 | 日本チェーンストア協会 等 |
| 24 | こんにゃく製造業 | こんにゃく製造業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国こんにゃく協同組合連合会 |
| 25 | 氷雪製造・販売業 | 氷雪製造・販売業におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 | 全国氷雪販売業生活衛生同業組合連合会 |
注意: 上記は主要なものの抜粋です。厚生労働省ウェブサイトにはさらに多くの手引書が掲載されています。自分の業種に該当する手引書が見つからない場合は、原材料や製造工程が類似しており、危害要因が共通する業種の手引書を参考にしてください。また、管轄保健所の食品衛生監視員に相談することも可能です。
5. 衛生管理計画の作り方
衛生管理計画とは
衛生管理計画とは、あなたの事業所で「いつ」「どこで」「何を」「どのように」管理するかを文書にしたものです。HACCP簡易版では、衛生管理計画を以下の2つの柱で構成します。
1. 一般衛生管理のポイント -- 食品を取り扱う上で基本となる衛生管理
2. 重要管理のポイント -- 食中毒等の健康被害を防止するために特に重要な管理
ステップ1:手引書を入手し、読み込む
まず、自分の業種に該当する手引書を厚生労働省ウェブサイトからダウンロードします。手引書の「解説」部分を読んで、以下を理解してください。
ステップ2:一般衛生管理計画を作成する
一般衛生管理とは、食品の安全性を確保するための土台となる管理項目です。以下の項目について、「いつ」「どのように」「問題があった時にどうするか」を決めます。
一般衛生管理の主な項目
(1)施設の衛生管理
(2)食品取扱設備等の衛生管理
(3)従業員の衛生管理(健康管理・手洗い)
(4)原材料の受入確認
(5)交差汚染・二次汚染の防止
(6)温度管理
(7)そ族・昆虫対策
(8)廃棄物の取扱い
ステップ3:重要管理計画を作成する
重要管理は、食中毒を防止するために特に重要な工程の管理です。食品の調理方法によって管理方法が異なります。
重要管理のポイント
グループ1:加熱して提供する食品(焼く、煮る、揚げる等)
グループ2:加熱後に冷却して提供する食品
グループ3:加熱しない食品(刺身、サラダ等)
ステップ4:衛生管理計画書に記入する
手引書に添付されているひな形(衛生管理計画書)に、上記の内容を記入します。
衛生管理計画 記入例テンプレート
以下に、3業種の記入例を示します。
記入例1:小規模飲食店(居酒屋)
【一般衛生管理計画書】
| 管理項目 | いつ | どのように | 問題があったとき |
|---|---|---|---|
| 施設の清掃 | 営業終了後 | 調理場の床・壁・排水溝を洗剤で清掃。トイレは専用洗剤で清掃・消毒 | 汚れが残っている場合は再清掃。排水溝の詰まりは業者に連絡 |
| 器具の洗浄・消毒 | 使用の都度 | まな板・包丁は用途別に使い分け。使用後は洗剤で洗浄し、熱湯又は次亜塩素酸ナトリウム液で消毒 | 破損した器具は廃棄し、新品に交換 |
| 従業員の健康管理 | 始業前 | 全従業員の健康状態を確認。下痢・嘔吐・発熱の有無を聴取 | 症状のある者は調理業務に従事させない。手指に傷がある場合は使い捨て手袋を着用 |
| 手洗い | 調理開始前、用便後、生ものを扱った後、清掃後 | 流水と石けんで30秒以上手洗い後、アルコール消毒 | 手洗い手順の掲示を確認。不十分な場合は再度手洗い |
| 原材料の受入 | 納品時 | 外観・臭い・温度・賞味期限を確認。冷蔵品は10度以下であることを確認 | 異常がある場合は返品又は廃棄 |
| 冷蔵庫・冷凍庫の温度 | 始業前・昼・終業時 | 温度計を確認。冷蔵10度以下、冷凍マイナス15度以下 | 温度異常時は原因調査。食材の品質を確認し、問題があれば廃棄 |
【重要管理計画書】
| 管理項目 | いつ | どのように | 問題があったとき |
|---|---|---|---|
| 加熱調理(焼鳥、揚げ物等) | 調理時 | 中心温度75度以上1分間以上を確認。又は断面の色・肉汁の色で確認 | 加熱不足の場合は再加熱 |
| 刺身の提供 | 調理時 | 冷蔵保管温度を確認。調理後は速やかに提供 | 鮮度に問題がある場合は提供しない |
記入例2:パン製造販売店
【一般衛生管理計画書】
| 管理項目 | いつ | どのように | 問題があったとき |
|---|---|---|---|
| 施設の清掃 | 製造開始前・終了後 | 作業台、床、壁を清掃。オーブン周りの粉塵を除去 | 汚れが残る場合は再清掃 |
| 器具の洗浄 | 使用前後 | ミキサー、分割機、成形台等を洗浄・乾燥 | 残渣がある場合は再洗浄 |
| 従業員の衛生 | 始業前 | 健康確認、清潔な作業着・帽子・マスクの着用、爪の長さ確認 | 体調不良者は製造業務から外す |
| 原材料管理 | 納品時・使用時 | 小麦粉は湿気のない場所に保管。卵・乳製品は冷蔵保管。先入先出を徹底 | 異物混入・変質がある場合は使用しない |
| アレルゲン管理 | 製造時 | 使用原材料のアレルゲン表示を確認。製造ラインの洗浄でコンタミ防止 | 不明な場合は製造を中止し確認 |
【重要管理計画書】
| 管理項目 | いつ | どのように | 問題があったとき |
|---|---|---|---|
| 焼成温度・時間 | 焼成時 | オーブン温度と焼成時間を確認。中心部まで十分に火が通っていることを確認 | 焼成不足の場合は再焼成又は廃棄 |
| クリーム・フィリングの温度管理 | 製造後 | 生クリーム、カスタードクリーム等は速やかに冷却し、10度以下で保管 | 温度が上がった場合は廃棄 |
記入例3:弁当製造販売業
【一般衛生管理計画書】
| 管理項目 | いつ | どのように | 問題があったとき |
|---|---|---|---|
| 施設の清掃 | 製造前後 | 調理場、盛付室、包装室を区分して清掃・消毒 | 汚れが残る場合は再清掃 |
| 器具の管理 | 使用前後 | 生もの用・加熱後用の器具を厳密に区分。使用後は洗浄・消毒 | 器具の取り違えがあった場合は、対象食品の廃棄を検討 |
| 従業員管理 | 始業前 | 健康状態の確認、検便の実施(月1回以上)、手洗い・消毒の実施 | 体調不良者は調理・盛付業務から外す |
| 原材料管理 | 納品時 | 温度・鮮度・消費期限・外観を確認。検収記録を作成 | 異常品は返品。仕入先に連絡 |
| 交差汚染防止 | 製造中 | 生もの区域と加熱後区域の動線を分離。エプロンの色分け | 交差汚染のおそれがある場合は該当ロットを廃棄 |
【重要管理計画書】
| 管理項目 | いつ | どのように | 問題があったとき |
|---|---|---|---|
| 加熱調理 | 調理時 | 中心温度75度以上1分間以上。代表的な食品で温度を測定・記録 | 加熱不足の場合は再加熱 |
| 冷却 | 加熱後 | 30分以内に中心温度20度付近に。小分け・氷水活用。1時間以内に10度以下を目標 | 冷却不十分な場合は廃棄 |
| 盛付・包装 | 盛付時 | 室温25度以下の環境で速やかに盛付。手袋・器具を使用し素手で触れない | 長時間放置した場合は廃棄 |
| 配送温度 | 配送時 | 保冷車又は保冷剤を使用。10度以下を維持 | 温度逸脱があった場合は販売を中止 |
6. 記録の付け方と保管
なぜ記録が必要か
記録は、衛生管理を「実際に行っている」ことの証拠です。保健所の立入検査で最も重視されるのが、この記録です。また、万が一食中毒等の事故が発生した場合、記録は原因究明や責任の所在を明確にするための重要な資料となります。
記録の基本ルール
1. 毎日記録する: 営業日ごとに記録を付ける
2. 事実を記録する: 問題がなかった場合も、「問題なし」と記録する
3. 異常時は詳細に: 問題が発生した場合は、内容と対応を具体的に記録する
4. 責任者が確認する: 記録を付けた人とは別の人(店長等)が確認し、サイン又は押印する
5. 改ざんしない: 修正する場合は二重線で消して訂正印を押す(修正テープは不可)
記録様式テンプレート3種
記録様式1:一般衛生管理 日常点検記録表(飲食店向け)
```
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 一般衛生管理 日常点検記録表 │
│ │
│ 店舗名:_________ 年月:___年__月 │
│ │
│ 【記入方法】良好:○ 問題あり:×(特記事項欄に詳細記入)│
│ │
│ ┌──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──────────┬──┐ │
│ │日付│施設│器具│健康│手洗│原材│温度│そ族│ 特記事項 │確認│ │
│ │ │清掃│洗浄│管理│い │料 │管理│害虫│ │印 │ │
│ ├──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──────────┼──┤ │
│ │ 1 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ ├──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──────────┼──┤ │
│ │ 2 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ ├──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──────────┼──┤ │
│ │ 3 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ ├──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──────────┼──┤ │
│ │...│ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ ├──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──────────┼──┤ │
│ │31 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ └──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──────────┴──┘ │
│ │
│ 月次振り返り実施日:__月__日 実施者:_____ │
│ 振り返り結果・改善事項: │
│ ___________________________ │
└─────────────────────────────────────────────────────────┘
```
記録様式2:重要管理 記録表(加熱・冷却管理向け)
```
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 重要管理 記録表(加熱・冷却) │
│ │
│ 店舗名:_________ 年月:___年__月 │
│ │
│ ┌──┬────────┬──────┬──────┬──────────┬──┐ │
│ │日付│ 食品名 │ 加熱確認 │ 冷却確認 │ 特記事項 │確認│ │
│ │ │ │(温度/状態)│(温度/時間)│ │印 │ │
│ ├──┼────────┼──────┼──────┼──────────┼──┤ │
│ │ 1 │鶏唐揚げ │75度以上○ │ ― │ │ │ │
│ │ │ポテトサラダ │ ― │20度/25分○│ │ │ │
│ ├──┼────────┼──────┼──────┼──────────┼──┤ │
│ │ 2 │ │ │ │ │ │ │
│ ├──┼────────┼──────┼──────┼──────────┼──┤ │
│ │...│ │ │ │ │ │ │
│ └──┴────────┴──────┴──────┴──────────┴──┘ │
│ │
│ 月次振り返り実施日:__月__日 実施者:_____ │
└─────────────────────────────────────────────────────────┘
```
記録様式3:冷蔵庫・冷凍庫 温度記録表
```
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 冷蔵庫・冷凍庫 温度記録表 │
│ │
│ 店舗名:_________ 年月:___年__月 │
│ 管理基準:冷蔵 10度以下 / 冷凍 マイナス15度以下 │
│ │
│ ┌──┬─────────────┬─────────────┬──────────┬──┐ │
│ │日付│ 冷蔵庫(度) │ 冷凍庫(度) │ 特記事項 │確認│ │
│ │ │ 朝 │ 昼 │ 夜 │ 朝 │ 昼 │ 夜 │ │印 │ │
│ ├──┼─────────────┼─────────────┼──────────┼──┤ │
│ │ 1 │ 5 │ 7 │ 6 │-18 │-17 │-18 │ │ │ │
│ ├──┼─────────────┼─────────────┼──────────┼──┤ │
│ │ 2 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ ├──┼─────────────┼─────────────┼──────────┼──┤ │
│ │...│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
│ └──┴─────────────┴─────────────┴──────────┴──┘ │
│ │
│ ※温度異常時は速やかに原因を調査し、特記事項欄に記入 │
└─────────────────────────────────────────────────────────┘
```
記録の保管期間
手引書では、記録の保管期間について以下を推奨しています。
| 業種 | 推奨保管期間 |
|---|---|
| 一般飲食店 | 1年間 |
| そうざい・弁当製造 | 1~3年間 |
| 菓子製造 | 1~2年間 |
| その他 | 各手引書の記載に従う |
実務上のアドバイス: 法定の保管期間は明確に定められていませんが、食中毒の潜伏期間(最長で数週間)や保健所の調査期間を考慮すると、最低1年間は保管することを推奨します。スペースに余裕があれば2~3年間保管すると安心です。
デジタル記録について
紙の記録表が基本ですが、タブレットやスマートフォンのアプリを使ったデジタル記録も認められています。ただし、以下の点に注意してください。
7. 保健所の立入検査対策
立入検査とは
食品衛生法第30条に基づき、都道府県等の食品衛生監視員が、食品等事業者の施設に立ち入り、食品の安全性や衛生管理の状況を確認する検査です。
立入検査は原則として事前通告なしで行われます。「今日来るかもしれない」という意識で、常日頃から衛生管理を実践しておくことが最も重要な対策です。
食品衛生監視員が確認する主なポイント
(1)衛生管理計画書の有無と内容
(2)記録表の有無と記入状況
(3)記録の振り返りの実施
注意: 2026年1月15日の手引書改訂により、「振り返り」が必須活動として明確化されました。月次振り返りの実施記録が新たな確認ポイントとなっています。
(4)施設・設備の状態
(5)従業員の衛生状態
(6)食品の取扱い状態
準備すべきこと(チェックリスト)
以下を常に閲覧可能な状態にしておいてください。
指摘を受けた場合の対応
1. 冷静に受け止める: 監視員の指摘は、衛生管理を改善するための助言です
2. 改善計画を作成: いつまでに、何を、どのように改善するかを文書化
3. 改善を実施: 計画に基づき速やかに改善を実施
4. 記録する: 改善内容と日付を記録
5. 報告する: 必要に応じて保健所に改善状況を報告
8. よくある失敗と改善策
失敗1:衛生管理計画書を作ったが、そのまま放置している
問題点: 計画書を作成しただけで、実際の運用に反映されていない。記録も付けていない。
改善策: 計画書を調理場の見やすい場所に掲示する。毎日の業務の一部として記録を付ける習慣をつける。始業時のミーティングで当日の管理ポイントを確認する。
失敗2:記録を後からまとめて書いている
問題点: 週末や月末にまとめて記録を記入。実際の管理状況を正確に反映していない。
改善策: 記録表を作業場所の近くに常備し、確認したその場で記入する。チェック方式(○/×)にすることで記入の手間を最小化する。
失敗3:問題が発生しても「○」を付けている
問題点: 冷蔵庫の温度が高かったのに「○」と記録するなど、事実と異なる記録をしている。
改善策: 問題の記録は「悪いこと」ではなく、「適切に管理している証拠」であることを従業員に教育する。問題と対応をセットで記録することで、むしろ保健所からの評価は上がる。
失敗4:手引書と異なる業種のものを使っている
問題点: 自分の業種に該当しない手引書を参考にしているため、管理すべきポイントが抜けている。
改善策: 厚生労働省の手引書検索システム(https://haccp.shokusan.or.jp/guideline/)で正しい手引書を特定する。該当するものがない場合は、管轄保健所に相談する。
失敗5:手洗いの管理が形骸化している
問題点: 「手洗い実施」と計画書に書いてあるが、実際にはバタバタして省略されることが多い。
改善策: 手洗いのタイミング(調理開始前、生肉を触った後、トイレ後等)を具体的にリスト化し、手洗い場所に掲示する。手洗い手順のポスター(厚生労働省が無料配布)を活用する。
失敗6:冷蔵庫の温度管理が甘い
問題点: 温度計が壊れている、又は詰め込みすぎで庫内温度が上昇している。
改善策: 温度計を定期的に校正する(氷水=0度、沸騰水=100度で確認)。庫内に余裕を持って収納する。扉の開閉を最小限にする。
失敗7:交差汚染防止の意識が低い
問題点: 生肉を切った包丁でサラダ用の野菜を切るなど、交差汚染のリスクがある作業が日常的に行われている。
改善策: まな板と包丁を用途別に色分けする(生肉=赤、魚=青、野菜=緑、調理済み=白など)。冷蔵庫内も生ものは下段、調理済みは上段と配置を決める。
失敗8:アレルゲン管理を見落としている
問題点: HACCP簡易版の対応に注力するあまり、食品表示法に基づくアレルゲン管理が不十分。
改善策: 使用原材料のアレルゲン情報を把握し、一覧表を作成する。お客様から問い合わせがあった際に正確に回答できる体制を整える。表示義務のある特定原材料8品目(えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生)は特に注意。
失敗9:従業員への教育が不十分
問題点: 経営者はHACCPを理解しているが、パート・アルバイトを含む従業員に十分な教育が行われていない。
改善策: 入社時の衛生教育を必須にする。手引書の内容を従業員向けにわかりやすくまとめた資料を作成する。定期的(少なくとも年1回)に衛生研修を実施する。
失敗10:振り返り(見直し)を行っていない
問題点: 衛生管理計画を一度作成した後、見直しをしていない。季節の変化(夏場の食中毒リスク増大等)やメニュー変更に対応できていない。
改善策: 月1回の振り返りを確実に実施する。振り返りの際には、記録を見返して問題の傾向を分析する。季節ごと(特に梅雨~夏場)に計画を見直す。メニュー変更時には重要管理計画も更新する。
9. FAQ 10問
Q1:HACCP簡易版に対応しないとどうなりますか?
A1: 食品衛生法第51条第2項に基づき、すべての食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理を行う義務があります。対応しない場合、保健所から改善指導を受けます。指導に従わない場合は、食品衛生法第56条に基づく営業許可の取消し又は営業の禁停止の処分を受ける可能性があります。罰則規定(食品衛生法第82条)により、50万円以下の罰金が科される場合もあります。
Q2:HACCP簡易版の導入にコストはかかりますか?
A2: 基本的に追加コストはほとんどかかりません。手引書は厚生労働省ウェブサイトから無料でダウンロードできます。記録用紙も各自治体の保健所で無料配布されています。中心温度計(2,000~5,000円程度)を持っていない場合は購入が必要です。コンサルタントへの依頼は任意であり、必須ではありません。
Q3:外部認証(ISO 22000やFSSC 22000)を取得する必要がありますか?
A3: 不要です。HACCP簡易版の対象事業者は、手引書に沿った衛生管理を行えば法律上の義務を果たしたことになります。外部認証は任意であり、取引先から求められた場合等に個別に判断してください。
Q4:記録は手書きでなければいけませんか?
A4: 手書きでなくても構いません。タブレットやパソコンを使ったデジタル記録も認められています。ただし、保健所の立入検査時に閲覧・印刷できること、データのバックアップがあること、改ざん防止の仕組みがあることが求められます。
Q5:営業日ごとに記録を付ける必要がありますか?休業日はどうすればいいですか?
A5: 営業日ごとに記録を付けます。休業日は記録不要ですが、記録表に「休業」と記入しておくと、記入漏れではないことが明確になります。
Q6:複数のメニューがある飲食店では、全メニューの加熱温度を記録しなければいけませんか?
A6: 全メニューの記録は不要です。代表的な食品(最も加熱しにくいもの、最もリスクの高いもの等)について管理すれば十分です。例えば、鶏の唐揚げ(大きい肉の中心温度)を代表的な食品として管理する方法が実務的です。
Q7:仕出し弁当の配送温度管理はどうすればいいですか?
A7: 保冷車又は保冷剤を使用し、弁当が10度以下に維持されていることを確認します。配送開始時と到着時の温度を記録することが望ましいです。夏場は特に注意が必要です。
Q8:保健所の立入検査はどのくらいの頻度で来ますか?
A8: 頻度は自治体や施設のリスクランクによって異なります。一般的に年1~2回程度ですが、高リスク施設(大量調理施設等)はより頻繁に検査が行われます。また、食中毒の発生時や苦情があった場合は随時検査が行われます。
Q9:手引書に書いていないことは管理しなくていいのですか?
A9: 手引書は最低限の管理事項を示したものです。自分の施設に特有のリスクがある場合は、手引書の内容に加えて追加の管理項目を設けることが推奨されます。判断に迷う場合は、管轄保健所の食品衛生監視員に相談してください。
Q10:HACCP簡易版で食品事故(食中毒等)が発生した場合、免責されますか?
A10: 免責されません。HACCP簡易版の実施は法律上の義務であり、これを実施していても食品事故の法的責任(民事責任、行政処分、刑事責任)は免除されません。ただし、記録が適切に保管されていれば、原因究明が容易になり、事業の早期再開につながる可能性があります。また、営業者として「できることをやっていた」という証拠にはなります。
10. 著者情報・CTA
この記事について
本記事は、食品安全の専門家チームが、厚生労働省の公式情報、食品衛生法及び関連法令、業界団体の手引書等に基づき執筆しました。記事の内容は2026年6月時点の法令・通知に基づいています。法令改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は厚生労働省ウェブサイトでご確認ください。
主要参考法令・資料
参考リンク
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次のステップ
HACCP簡易版への対応は、以下の手順で進めてください。
1. 手引書をダウンロード -- 自分の業種に該当する手引書を入手
2. 衛生管理計画書を作成 -- 手引書のひな形を使って記入
3. 従業員に周知 -- 計画書の内容をミーティング等で共有
4. 記録の運用を開始 -- 営業日ごとに記録を付ける
5. 月次振り返りを実施 -- 毎月1回、記録を見直して改善
ご不明な点がございましたら、管轄の保健所の食品衛生監視員にお気軽にご相談ください。
*本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。個別の事案については、管轄の保健所又は食品衛生の専門家にご相談ください。*
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