日本・EU・米国 HACCP制度比較 完全ガイド【輸出事業者必読・2026年版】
最終更新:2026年6月
著者:MmowW Food 食品安全研究チーム
対象読者:食品輸出事業者、多国籍食品企業、食品安全管理責任者、行政書士
目次
7. GFSI認証の国際比較
9. FAQ 10問
10. 著者情報・CTA
1. 導入 ― なぜクロス国HACCP比較が必要なのか
食品のグローバル化が加速する2026年、日本の食品事業者にとって「自国のHACCPを守っていれば安心」という時代は完全に終わった。
農林水産省の統計によれば、日本の農林水産物・食品の輸出額は2025年に2兆円規模に迫り、政府は2030年に5兆円という目標を掲げている。輸出先の上位にはアメリカ、EU加盟国が名を連ね、これらの市場に食品を送り込むためには、相手国の食品安全規制への適合が不可欠だ。
しかし、ここに大きな落とし穴がある。日本・EU・米国はそれぞれ独自のHACCP制度を運用しており、その内容は想像以上に異なる。
この3つの制度を正確に理解し、差異を把握していなければ、以下のような事態に直面する。
1. 輸出拒否 ― 米国FDAのFSVP(Foreign Supplier Verification Program)検査で不適合となり、輸入差止めを受ける
2. 認証の無駄打ち ― 日本のHACCP認証だけを取得し、EU市場で通用しないことに後から気づく
3. 法的リスク ― 罰則体系が国ごとに大きく異なり、想定外の制裁を受ける
4. 取引先からの要求不適合 ― グローバルバイヤーが求めるGFSI認証(SQF、BRC、FSSC 22000等)への対応が遅れる
本記事は、日本・EU・米国のHACCP制度を15以上の比較項目で網羅的に分析し、輸出事業者が「何をすべきか」を明確にする完全ガイドである。法律名、条文番号、EU規則番号、CFR番号まですべて実際の法令に基づいて記載している。
本記事が対象とする読者:
2. 3制度の概要比較表
以下の表は、日本・EU・米国のHACCP関連制度を15の比較項目で整理したものである。
| 比較項目 | 日本 | EU | 米国 |
|---|---|---|---|
| **根拠法令** | 食品衛生法(昭和22年法律第233号)、2018年改正(平成30年法律第46号) | Regulation (EC) No 852/2004(食品衛生規則)、Regulation (EC) No 178/2002(一般食品法) | FDA Food Safety Modernization Act (FSMA), Public Law 111-353 (2011)。21 CFR Part 117(人間用食品の予防的管理)、21 CFR Part 120(ジュースHACCP)、21 CFR Part 123(水産物HACCP)、9 CFR Part 417(食肉HACCP、USDA管轄) |
| **義務化時期** | 2021年6月1日完全義務化(経過措置期間:2020年6月~2021年5月) | 2006年1月1日(Regulation 852/2004の適用開始) | 水産物HACCP:1997年、ジュースHACCP:2001年、食肉HACCP:1998年(USDA)、FSMA予防的管理:2016年9月(大企業)~2018年9月(極小企業) |
| **監督機関** | 厚生労働省、都道府県・保健所 | 欧州委員会(European Commission)、EFSA(欧州食品安全機関)、各加盟国の所管当局(例:ドイツBVL、フランスDGAL) | FDA(Food and Drug Administration)、USDA-FSIS(食肉・鶏肉・卵製品)。FDAは21 USC 350g、USDAは21 USC 601 et seq. |
| **対象事業者** | 原則としてすべての食品等事業者(食品の製造・加工・調理・販売等)。食品衛生法第50条の2 | 一次生産を除く、すべての食品事業者(food business operators)。Regulation 852/2004 Article 1(2) | FDAに施設登録義務のあるすべての食品施設(21 USC 350d)。農場は除外。食肉・鶏肉はUSDA管轄 |
| **小規模事業者への配慮** | 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(小規模事業者向け簡易アプローチ)。厚生労働省通知に基づく業種別手引書の活用 | Regulation 852/2004 Recital 15:小規模事業者にはHACCPの柔軟な適用(flexibility)が認められる。ガイドラインベースの運用も可 | 極小企業(年間売上100万ドル未満)は適格施設(Qualified Facility)として修正要件が適用。21 CFR 117.5(a) |
| **HACCPの定義・基本フレームワーク** | Codex 7原則12手順をベースとしつつ、日本独自の2層構造(「基づく」と「考え方」) | Codex Alimentarius 7原則12手順をほぼ忠実に採用。Regulation 852/2004 Article 5 | FSMAではHACCPを超えるHARPC(Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls)を導入。21 CFR Part 117 Subpart C。水産物・ジュースは従来HACCP維持 |
| **原則数** | 7原則12手順(Codex準拠) | 7原則(Regulation 852/2004 Article 5(2)に明記) | HARPC:明確な「原則数」の定義なし。ハザード分析+予防的管理+モニタリング+是正措置+検証+リコール計画。水産物・ジュースHACCPは7原則 |
| **対象ハザード** | 生物的・化学的・物理的危害要因 | 生物的・化学的・物理的危害要因 | 生物的・化学的・物理的・**放射線学的**危害要因(radiological hazards)。さらにFSMA Food Defense Rule(21 CFR Part 121)で意図的異物混入も対象 |
| **認証制度** | 法的にはHACCP認証の義務なし。任意でJFS規格(日本発GFSI承認スキーム)、ISO 22000、FSSC 22000等を取得 | EU法上、第三者認証の義務なし。ただし取引慣行としてBRC、IFS、FSSC 22000等のGFSI認証が事実上必須 | 法的にはFDA認証不要(FDAは認証機関ではない)。ただしFSVPでの第三者監査、GFSI認証(SQF、BRC等)がバイヤー要件として普及 |
| **検査頻度** | 都道府県による定期監視指導(年1回以上が目安、リスクに応じて加重)。食品衛生法第28条 | 加盟国により異なる。リスクベースの公的管理(Official Controls)。Regulation (EU) 2017/625に基づく | FDAによるリスクベースの施設検査。高リスク国内施設は3年に1回以上、その他は5年に1回以上(FSMA Section 201)。外国施設はFSVPによる検証 |
| **罰則** | 営業停止・禁止命令(食品衛生法第55条・第56条)。罰金:3年以下の懲役又は300万円以下(法人は1億円以下)の罰金(同法第81条、第86条) | 加盟国の国内法による。例:ドイツ食品・飼料法典(LFGB)違反は最大5万ユーロの罰金又は最大5年の懲役。英国Food Safety Act 1990では無制限の罰金又は2年以下の懲役 | 民事罰:FDAは1回の違反あたり最大約680,000ドル(年間インフレ調整、21 USC 335b)。刑事罰:故意の違反は最大3年の懲役又は10,000ドルの罰金(21 USC 333)。USDA管轄は別途 |
| **第三者認証の法的義務** | なし(任意) | なし(任意だが商慣行で事実上必須) | なし(任意)。ただしFSMA Accredited Third-Party Certification Program(21 CFR Part 1 Subpart M)が輸入食品の迅速通関に活用可能 |
| **記録保管期間** | 明確な法定期間の定めなし。厚生労働省は「合理的な期間」として製品の消費期限+一定期間を推奨 | Regulation 852/2004では具体的な期間を規定せず。一般食品法(Regulation 178/2002)でトレーサビリティ記録の保管を求め、各国法で補完 | 21 CFR 117.315:食品安全計画の記録は少なくとも2年間保管。水産物HACCPは21 CFR 123.9で1年間(冷凍・加工品)又は消費期限+1年 |
| **トレーサビリティ** | 食品衛生法及び食品表示法に基づく記録の作成・保管の努力義務。牛肉は「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」で義務化 | Regulation (EC) No 178/2002 Article 18:全食品事業者に「one step back, one step forward」のトレーサビリティ義務。2026年よりEUデジタル製品パスポート拡大議論中 | FSMA Section 204(追加トレーサビリティ記録規則):FDA Food Traceability Rule(21 CFR Part 1 Subpart S)が2026年1月20日に発効。高リスク食品にKDE(Key Data Elements)記録義務 |
| **リコール制度** | 行政指導ベースの自主回収が中心。食品衛生法第58条で事業者に届出義務(2021年改正で強化) | Regulation 178/2002 Article 19:事業者に自主回収義務。RASFF(Rapid Alert System for Food and Feed)による加盟国間の迅速警報 | FSMA Section 206:FDAに**強制リコール権限**(mandatory recall authority)を付与。21 USC 350l。それ以前は自主回収のみ |
| **輸入食品への要件** | 食品衛生法第26条~第28条:輸入届出制度。検疫所で書類審査・検査。輸入食品に日本のHACCP義務は直接適用されないが、安全性の確認が必要 | 第三国からの輸入はRegulation (EC) No 853/2004及び各品目別規則に基づき、EU認定施設(approved establishment)からの輸入が条件。HACCPの同等性が求められる | FSVP(Foreign Supplier Verification Program):21 CFR Part 1 Subpart L。米国輸入者に外国供給者の検証義務。日本からの輸出にはFDA施設登録(21 CFR Part 1 Subpart H)が必要 |
3. 日本のHACCP制度(詳細)
3.1 法的根拠と義務化の経緯
日本のHACCP制度の法的根拠は食品衛生法(昭和22年法律第233号)であり、2018年(平成30年)の改正法(平成30年法律第46号)により、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務付けられた。
タイムライン:
3.2 2つのHACCP ―「基づく」と「考え方」
日本のHACCP制度の最大の特徴は、事業者の規模・業態に応じた2層構造にある。
(A) HACCPに基づく衛生管理
対象: 大規模事業者、と畜場、食鳥処理場など
内容: Codex Alimentariusの7原則12手順に基づくHACCPプランの策定・実施
具体的要件:
これはCodex HACCPに最も近い形態であり、EU・米国の制度との同等性を主張する場合の基盤となる。
(B) HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
対象: 小規模事業者(従業員50人未満を目安)、飲食店営業、販売のみの事業者、提供する食品の種類が多く変更頻度が高い事業者など
内容: 各業界団体が作成し厚生労働省が確認した「手引書」に基づく簡略化されたアプローチ
具体的特徴:
3.3 厚生労働省の手引書制度
厚生労働省は、各食品業界団体が作成した「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」を確認・公表している。これは、小規模事業者がHACCPの概念を自社の実情に合わせて取り入れるためのツールであり、以下のような業種別手引書が存在する。
手引書の活用は法的義務ではないが、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施する際の事実上の標準文書として位置づけられている。
3.4 営業許可制度との関係
2021年の改正では、食品衛生法に基づく営業許可制度も大幅に見直された。
営業許可の取得・更新にあたっては、HACCPに沿った衛生管理の実施状況が確認される。
3.5 日本のHACCPの限界 ― 国際的視点から
日本のHACCPには、輸出を考える事業者にとって認識すべき以下の限界がある。
1. 「考え方」はCodex HACCPと同等ではない ― 手引書ベースの簡易アプローチは、EUのRegulation 852/2004や米国のFSMA予防的管理規則が求める水準とは異なる
2. 法定の第三者認証がない ― 日本のHACCP制度は行政の監視指導に依存しており、国際的に認知された第三者認証を法的に要求していない
3. 記録保管期間が不明確 ― 米国の21 CFR 117.315のような明確な最低保管期間が法定されていない
4. トレーサビリティの義務範囲が限定的 ― EUの「one step back, one step forward」のような包括的義務は、牛肉を除き努力義務にとどまる
4. EUのHACCP制度(詳細)
4.1 法的根拠
EUの食品安全制度は、以下の複数の規則(Regulation)で構成される「ハイジーンパッケージ(Hygiene Package)」を中心に運用されている。
4.2 Regulation (EC) No 852/2004の詳細
Regulation 852/2004のArticle 5は、HACCP要件の核心である。
Article 5(2) は以下の7原則を明記している:
1. 予防・排除すべき、又は許容水準まで低減すべきハザードの特定
2. ハザードの予防・排除又は許容水準への低減に不可欠なCCP(重要管理点)の特定
3. 特定されたハザードの予防・排除又は許容への低減のために、各CCPにおける管理基準の設定
4. 各CCPにおけるモニタリング手順の設定・実施
5. CCPが管理基準内にないことをモニタリングが示した場合の是正措置の設定
6. HACCP措置が有効に機能していることを確認するための定期的な検証手順の設定
7. 上記の措置に見合った文書・記録の作成
Article 5(1) の注目点は、この義務が一次生産(primary production)を除くすべての段階に適用される点である。一次生産はAnnex I(附属書I)の一般衛生規則に従う。
4.3 EFSA(欧州食品安全機関)の役割
EFSA(European Food Safety Authority)は、EUの食品安全政策にリスク評価(risk assessment)の科学的基盤を提供する独立機関である(本部:イタリア・パルマ)。
EFSAの機能:
EFSAは規制権限を持たない(規制はEuropean CommissionとEU加盟国の所管)が、そのリスク評価は政策決定に直結する。
4.4 EU加盟国ごとの執行差異
EUの食品安全規則は全加盟国に直接適用される(Regulationは国内法化不要)が、執行(enforcement)は各加盟国の所管当局に委ねられている。これが実務上の重要な差異を生む。
| 加盟国 | 所管当局 | 執行の特徴 |
|---|---|---|
| ドイツ | BVL(連邦消費者保護食品安全庁)、各州当局 | 連邦制のため州ごとの執行差異あり。LFGB(食品・飼料法典)に基づく厳格な罰則 |
| フランス | DGAL(食品総局)、DGCCRF(競争・消費・不正防止総局) | 比較的集権的。食品安全と消費者保護の二重監視体制 |
| イタリア | Ministero della Salute(保健省)、NAS(衛生に関する対詐欺カラビニエリ) | 中小企業が多い食品産業に柔軟な運用。ただし執行は厳格化の傾向 |
| オランダ | NVWA(食品消費者製品安全庁) | デジタル化が進んだ効率的な監視体制。輸入食品の検査体制も充実 |
4.5 Brexit後のUK食品安全制度
2020年12月31日のEU離脱移行期間終了後、英国(UK)はEU食品安全法を国内法に移管した。
現行の英国制度:
日本の輸出事業者への影響:
5. 米国のHACCP/FSMA制度(詳細)
5.1 FSMA(Food Safety Modernization Act)の概要
2011年1月4日にバラク・オバマ大統領が署名したFSMA(Public Law 111-353)は、1938年のFederal Food, Drug, and Cosmetic Act以来の食品安全法制の最大の改革であり、FDAに以下の新権限を付与した。
FSMAの主要7規則:
1. Preventive Controls for Human Food(人間用食品の予防的管理)― 21 CFR Part 117
2. Preventive Controls for Animal Food(動物用食品の予防的管理)― 21 CFR Part 507
3. Produce Safety Rule(農産物安全規則)― 21 CFR Part 112
4. Foreign Supplier Verification Programs (FSVP)(外国供給者検証プログラム)― 21 CFR Part 1 Subpart L
5. Accredited Third-Party Certification(認定第三者認証)― 21 CFR Part 1 Subpart M
6. Sanitary Transportation(衛生的輸送)― 21 CFR Part 1 Subpart O
7. Intentional Adulteration (Food Defense)(意図的異物混入防止)― 21 CFR Part 121
5.2 HARPC vs HACCP ― 核心的な違い
FSMAの最大の変革は、従来のHACCPを超えるHARPC(Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls)の導入である。以下の表でその違いを明確にする。
| 比較項目 | HACCP(従来型) | HARPC(FSMA) |
|---|---|---|
| **法的根拠** | 21 CFR Part 120(ジュース)、21 CFR Part 123(水産物)、9 CFR Part 417(食肉、USDA) | 21 CFR Part 117(人間用食品の予防的管理) |
| **管理ポイントの概念** | CCP(重要管理点)に集中 | Preventive Controls(予防的管理)。CCPに限定されない。工程管理以外にもサプライチェーン管理、サニテーション管理、アレルゲン管理を包含 |
| **管理基準** | Critical Limits(管理基準)が各CCPに必須 | パラメータと値を設定するが、すべての予防的管理にCritical Limitsが必須ではない |
| **対象ハザード** | 生物的・化学的・物理的 | 生物的・化学的・物理的・**放射線学的**。さらに経済的動機による意図的混入(Economically Motivated Adulteration)も考慮 |
| **是正措置** | Corrective Actions(是正措置)のみ | Corrective Actions に加え、Corrections(軽微な問題の修正)も導入。Correctionsは記録要件が軽減 |
| **計画の見直し頻度** | 年1回の見直し(reassessment)が一般的 | 最低3年に1回の再分析(reanalysis)。21 CFR 117.170 |
| **適格者の要件** | HACCPチーム(特定の資格要件なし) | **PCQI(Preventive Controls Qualified Individual)**:予防的管理の適格者。FDAが認めた標準カリキュラムの訓練修了又は同等の経験。21 CFR 117.180 |
| **サプライチェーン管理** | 明示的な要件なし | Supply-Chain Program:サプライヤーの承認・検証が義務。21 CFR 117 Subpart G |
| **リコール計画** | 含まれない場合が多い | 食品安全計画(Food Safety Plan)にリコール計画の記載が義務。21 CFR 117.139 |
| **フードディフェンス** | 対象外 | 別途FSMA Intentional Adulteration Rule(21 CFR Part 121)で義務化(年間売上1,000万ドル以上の施設) |
5.3 FDA vs USDA ― 管轄の分かれ目
米国の食品安全規制の特異性は、FDAとUSDAという2つの連邦機関が管轄を分けている点にある。
実務上の重要なポイント:
5.4 FSVP(Foreign Supplier Verification Program)― 日本からの輸出に直結
日本から米国に食品を輸出する際に最も直接的に影響するのがFSVP(21 CFR Part 1 Subpart L)である。
FSVPの核心:
FSVPは、米国の輸入者(importer)に対し、外国の供給者が米国の食品安全基準と同等の水準で食品を製造していることを検証する義務を課す制度である。
米国輸入者の義務:
1. ハザード分析:輸入する食品の既知又は合理的に予見可能なハザードの特定
2. 供給者の評価:ハザード分析に基づくリスク評価と、外国供給者のパフォーマンス評価
3. 供給者の承認:リスク評価に基づく供給者の承認手続き
4. 供給者検証活動:以下から適切な方法を選択
5. 是正措置:不適合が判明した場合の対応
6. 記録の保管:検証活動の記録を最低2年間保管
日本の輸出事業者が知るべきこと:
5.5 PCQI(Preventive Controls Qualified Individual)
FSMAの予防的管理規則では、食品安全計画の策定・実施を監督するPCQI(予防的管理適格者)の配置が義務付けられている。
PCQIの要件(21 CFR 117.180):
実務上のポイント:
6. 輸出事業者のための実務ガイド
6.1 日本→EU輸出:必要な認証・手続き
日本からEUに食品を輸出する際の主要ステップは以下のとおりである。
Step 1:EU認定施設の取得
動物由来食品(食肉、水産物、乳製品等)をEUに輸出するためには、日本の施設がEU認定施設(approved establishment)としてリスト登録されている必要がある。
Step 2:衛生証明書(Health Certificate)の取得
Step 3:GFSI認証の取得(推奨)
Step 4:残留基準の確認
6.2 日本→米国輸出:FSVP対応・FDA施設登録
Step 1:FDA施設登録
Step 2:Prior Notice(事前通知)
Step 3:FSVP対応の体制整備
Step 4:品目別の追加要件
6.3 EU/米国→日本輸入:検疫・食品衛生法準拠
EU又は米国から日本に食品を輸入する際のポイントは以下のとおり。
輸入届出
検査体制
規格基準の確認
7. GFSI認証の国際比較
GFSI(Global Food Safety Initiative)は、世界の食品安全水準の向上を目的とした民間主導のイニシアチブであり、食品安全マネジメント認証スキームの「ベンチマーキング(同等性評価)」を行っている。
以下の4大GFSI承認スキームの比較表を示す。
| 比較項目 | SQF(Safe Quality Food) | BRCGS(British Retail Consortium Global Standards) | FSSC 22000 | IFS Food(International Featured Standards) |
|---|---|---|---|---|
| **運営団体** | FMI(Food Marketing Institute)/ SQF Institute | BRCGS(LGC Group) | FSSC Foundation | IFS Management GmbH |
| **規格の基盤** | 独自のSQF Code(Edition 9) | 独自のBRCGS Global Standard for Food Safety(Issue 9) | ISO 22000 + ISO/TS 22002-1(又は業種別PRP規格)+ FSSC追加要件 | 独自のIFS Food Standard(Version 8) |
| **認証レベル** | Level 1(食品安全基礎)、Level 2(HACCP認定食品安全計画)、Level 3(品質管理含む) | 合格(AA/A/B)又は不合格(C/D) | 合格又は不合格 | 基礎(Foundation Level、75%以上)又は上位(Higher Level、95%以上) |
| **主な市場** | 北米(特に米国)が中心。オーストラリアでも普及 | 英国、EU、グローバル。小売チェーン向けで最も広く認知 | グローバル。ISO基盤のため製造業に幅広く普及 | EU(特にドイツ、フランス、イタリア)。EU大陸圏の小売チェーンで主流 |
| **監査頻度** | 年1回(announced又はunannounced) | 年1回(announced又はunannounced option) | 年1回+サーベイランス | 年1回(announced又はunannounced) |
| **日本の輸出事業者にとっての利点** | 米国市場への輸出に最適。FSVPの供給者検証にも活用可 | EU・英国市場への参入に効果的。グローバルな認知度が最高レベル | ISO 22000ベースのため日本企業にとって導入しやすい。JFS-Cとの親和性も高い | EU大陸市場(ドイツ、フランス等)への輸出に最適 |
| **費用感(目安)** | 中(初年度50万~200万円程度、規模による) | 高(初年度100万~300万円程度) | 中~高(ISO 22000取得済みなら追加コスト小) | 中(初年度80万~250万円程度) |
JFS規格について
日本発のGFSI承認スキームとしてJFS規格(一般財団法人食品安全マネジメント協会が運営)がある。
JFS-Cは2018年にGFSI承認を取得しており、国際市場でのGFSI認証としての有効性を持つ。日本語で監査を受けられる利点があり、日本の中小食品企業の国際認証取得のハードルを下げている。
8. クロス国コンプライアンスのよくある落とし穴
落とし穴1:日本のHACCPだけではEU・米国に輸出できない
最も多い誤解は、「日本の食品衛生法に基づくHACCPを実施していれば、EU・米国にそのまま輸出できる」というものだ。
実態:
対策:
落とし穴2:「HACCPに基づく衛生管理」とCodex HACCPの微妙な差異
日本の「HACCPに基づく衛生管理」はCodex HACCPの7原則12手順をベースにしているが、以下の点で厳密にはCodex HACCPと同一ではない。
落とし穴3:HARPC特有の要件を見落とすケース
日本の事業者が米国向け輸出に際してHACCPの経験をそのまま適用しようとすると、FSMA HARPC特有の以下の要件を見落とすことが多い。
1. サプライチェーン管理義務(Supply-Chain Program):HACCPにはない概念。原材料供給者の食品安全プログラムを検証する義務がFSMAで新設(21 CFR 117 Subpart G)
2. PCQIの配置義務:HACCP計画はチームで策定できるが、FSMAではPCQI(Preventive Controls Qualified Individual)という適格者の指定が義務
3. 放射線学的ハザードの考慮:HACCPでは生物的・化学的・物理的ハザードのみだが、HARPCでは放射線学的ハザードも対象
4. 経済的動機による意図的混入:EMA(Economically Motivated Adulteration)への対応が求められる。例:メラミン汚染ミルクのようなケース
5. リコール計画の義務化:食品安全計画にリコール手順の記載が必須(21 CFR 117.139)。従来型HACCPでは含まれないことが多い
6. フードディフェンス:年間売上1,000万ドル以上の施設には別途Intentional Adulteration Rule(21 CFR Part 121)が適用
落とし穴4:EUのHACCP柔軟性規定の誤用
EUのRegulation 852/2004 Recital 15は小規模事業者へのHACCPの「柔軟な適用(flexibility)」を認めているが、これを過度に拡大解釈するケースがある。
誤解: 小規模事業者はHACCPを完全に免除される
実態: 柔軟性はHACCPの7原則そのものの免除ではなく、適用方法の簡素化を許容するもの。すべての食品事業者(一次生産を除く)にHACCPは義務
落とし穴5:記録保管期間のミスマッチ
3つの法域で記録保管期間が異なることを認識せず、最短の期間で記録を廃棄してしまうケースがある。
推奨: 複数市場に出荷する場合は、最も厳格な要件(米国の2年間、又は製品のシェルフライフ+追加期間のいずれか長い方)に合わせて記録を保管する。
9. FAQ 10問
以下のFAQは、日本の食品事業者から最も多く寄せられる質問をまとめたものである。
Q1:日本のHACCP認証があれば、EU・米国に食品を輸出できますか?
A: いいえ、それだけでは不十分です。日本の食品衛生法に基づくHACCPは、EU・米国の法的要件を自動的に満たすものではありません。EU向けには品目に応じてEU認定施設の取得や衛生証明書が必要であり、米国向けにはFDA施設登録、FSVP(外国供給者検証プログラム)への対応、さらにはFSMAの予防的管理規則(HARPC)への適合が求められます。加えて、取引先から事実上の要件としてGFSI認証が求められることが一般的です。
Q2:HACCPとHARPCの最大の違いは何ですか?
A: 最大の違いは管理の範囲です。HACCPはCCP(重要管理点)を中心とした工程管理に焦点を当てますが、HARPCはそれを超えて、サプライチェーン管理、アレルゲン管理、サニテーション管理、リコール計画、さらにはフードディフェンスまでを包括的にカバーする「予防的管理(Preventive Controls)」の概念を導入しています。また、対象ハザードにも差があり、HARPCでは放射線学的ハザードも含まれます。
Q3:FSVP(外国供給者検証プログラム)は日本の輸出事業者に直接適用されますか?
A: FSVPの法的義務は米国の輸入者に課されるものであり、日本の輸出事業者に直接適用されるわけではありません。しかし、米国の輸入者がFSVPを遵守するためには、日本の供給者側の協力が不可欠です。具体的には、食品安全計画の英語版提供、定期的な第三者監査の受入れ、食品安全記録の提出などが求められます。これに対応できない場合、米国の輸入者は別の供給者に切り替える可能性があります。
Q4:EU向け輸出にGFSI認証は法的に必要ですか?
A: EU法上、GFSI認証は法的義務ではありません。Regulation 852/2004はHACCPの実施を義務付けていますが、特定の第三者認証の取得は求めていません。しかし、EU市場の実態として、大手小売チェーンや食品メーカーとの取引にはBRC、IFS、FSSC 22000等のGFSI認証が事実上の必須条件となっています。認証なしでの取引は、小規模なニッチ市場に限定されるでしょう。
Q5:小規模事業者でも輸出は可能ですか?
A: 可能です。ただし、日本国内で「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となる小規模事業者であっても、輸出先の基準はそれよりも厳格である場合がほとんどです。輸出を行う場合は、「HACCPに基づく衛生管理」のレベルまで自社の衛生管理を引き上げ、輸出先国の固有の要件(EU認定施設、FDA施設登録等)にも対応する必要があります。
Q6:EU離脱後の英国向け輸出は、EU向けと同じ手続きで可能ですか?
A: いいえ、異なります。Brexit後の英国はEU食品安全法を国内法に移管しましたが、独自の制度として運用しているため、EU向けとは別に英国のFSA(Food Standards Agency)の要件を確認する必要があります。特に、北アイルランドはウィンザー枠組みによりEU規則が引き続き適用される一方、グレートブリテン(イングランド、ウェールズ、スコットランド)はRetained EU Lawに基づく独自規制です。事実上、EU向けと英国向けで二重の対応が必要になるケースがあります。
Q7:PCQIは日本国内で取得できますか?
A: はい。FSPCA(Food Safety Preventive Controls Alliance)の標準カリキュラムに基づくPCQI訓練は、日本国内でも研修機関やコンサルティング会社を通じて受講可能です。オンラインと対面の両方の形式があります。PCQI資格は「認証(certification)」ではなく「訓練修了(training completion)」の性格であり、定期的な更新が公式には義務付けられていませんが、継続的な能力開発が推奨されています。
Q8:日本の食品をEUと米国の両方に輸出する場合、認証は2つ必要ですか?
A: GFSI認証は相互に認知されるため、原則として1つのGFSI承認スキームの認証で両市場に対応できます。例えば、FSSC 22000やBRCはEU・米国の両市場で広く認知されています。ただし、法的な要件としてのEU認定施設、FDA施設登録、衛生証明書等は市場ごとに別途対応が必要であり、認証だけでは代替できません。
Q9:Codex Alimentarius HACCPの法的拘束力はありますか?
A: Codex Alimentarius自体には法的拘束力はありません。Codex Alimentarius委員会(CAC)が策定する基準・ガイドラインは、FAO/WHOの下での国際的な参照基準(reference standards)であり、各国が自発的に採用するものです。ただし、WTOのSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)において、Codex基準は貿易紛争における参照点として位置づけられており、事実上の国際標準としての影響力は極めて大きいです。日本、EU、米国のいずれもCodex HACCPの7原則を自国の制度設計の基盤としています。
Q10:2026年に注目すべき法改正・制度変更はありますか?
A: 2026年の注目ポイントは以下のとおりです。
1. 米国 FDA Food Traceability Rule(21 CFR Part 1 Subpart S):2026年1月20日発効。食品トレーサビリティリスト(FTL)に掲載された高リスク食品について、KDE(Key Data Elements)の記録義務が本格化。日本からの輸出品がFTLに該当する場合、サプライチェーン全体のトレーサビリティ体制の見直しが必要
2. EU Farm to Fork戦略の進展:EU Green Dealの一環として、持続可能な食品システムへの移行が進行中。食品安全規制と環境・持続可能性要件の統合が加速する見込み
3. 日本の食品衛生法運用の成熟:2021年のHACCP完全義務化から5年が経過し、行政の監視指導の精緻化及び業種別手引書の改訂が進む。輸出促進の文脈でJFS規格の普及策も強化される見通し
10. 著者情報・CTA
本記事について
本記事は、MmowW Food(mmoww.net)の食品安全研究チームが、日本・EU・米国の食品安全法令の一次資料を基に作成しました。記載されている法律名、条文番号、EU規則番号、CFR番号はすべて2026年6月時点の公式法令に基づいています。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、法的助言を構成するものではありません。個別の輸出案件については、食品安全法規の専門家又は行政書士に相談することを推奨します。法令は改正されることがあるため、最新の法令を必ず確認してください。
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1. 自社のHACCPが輸出先のどの制度に対応できているか
2. GFSI認証の取得又は更新のタイムライン
3. 2026年に発効する新規制(特に米国Food Traceability Rule)への準備状況
*本記事は2026年6月時点の情報に基づいています。法令は随時改正されるため、最新情報はMmowW Food(mmoww.net)で確認してください。*
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